草取り職人–慶田盛(けだもり)おじさん–

毎月訪れる営業マンの方が会話の最中に思い出話として語ってくれたこと。

この話が出た切っ掛けは、従業員に職人の心構えを知ってもらおうと「職人衆昔ばなし」「大工一代」から引用した出来事を話したことからでした。

大寅さんの修行時代、道具小ガンナを借りた時「あると重宝だよ」と皮肉を言われたエピソード、

 「職人衆昔ばなし」(大寅道具ばなし)より、大寅さんは名は味方寅治、明治33年生の大工さん。

この本が出たのが昭和40年代、当時の大工と明治生まれの大寅さんの道具への思い入れの違いとして語られていました。

「・・・え? なにね、仕事場へいって、年寄りに、「すいませんが、ちょっと小ガンナ貸してもらえませんか」ってったんだよ。そしたらその年寄りがね、ジロリ横目で流し目に見て、なんとも言えない笑い方をすると、「ハイヨ。あると重宝だよ」って言ったんだ。それだけだが、あたしァ顔から火が出たね。受けとった小ガンナが、ジリッと手に灼きついたような心持ちがして、しばらくは顔もあげられなかった。――あると重宝だよ・・・・・。そう言った年寄りの皮肉を、それからあとも時々思い出しちゃァ舌を噛み切りたいような気のしたことがなんべんもあるね。

その時まるで「女房を貸せ」とでも言われたような、不愉快そうな、にがい、そしてあきらめてうすら笑いした年寄りの目を思い出すと、あたしは地ベタを転げまわりたいほど恥ずかしい気がしたもんだ。その時からあたしは決心した。「ヨウシ、道具は貸してもかりねぇぞ」・・・」。

こんな経験をした大寅さんそれ以降道具は自分で揃え、大切に扱う気持ちが持てたのです。

「大工一代」では、棟梁平田雅哉さんのエピソード、自分が手がけた新築したばかりの家から出火、自分のミスで火事になっていたらと

匕首を懐に駆けつけ自分のせいだったら腹をかっさばいて詫びると言う話、昔の職人さん武士と同じ責任の取り方をしたんだと話し、

こんな職人気質を従業員に聞かせ、道具、仕事の取り組み方を話した事を言うと、営業マン子供の頃の記憶が甦えり思い出話をしてくれたのでした。

小3の頃の事、その営業マン沖縄竹富島の出身、その頃家々の畑の草取りをして生計を立てている人が使う道具に感銘した話。

約半世紀前の事。

 草取りに使う道具、短冊状の鉄板に樫でできた柄がついていて、その柄がすり減り指の跡ができているのに子供心に感銘したというのです。

何十年も使い込んでできた跡、その思いは理解できると話しました。

家々の畑の草取り、自分には畑がなくその手間賃で暮らしをしていたのでしょう。

その仕事振り、慣れた手つきで草を取る仕草にも興味を持って見ていたとのこと。

熟練の動き、職人さんが見せる動作、リズム感があり見ていて楽しいものがありますね!

 

作業が終わると草取り職人、慶田盛おじさんには食事と一杯の酒が振舞われるのですが、それを方言で「ぶがりのうし」というそうです。

意味は「疲れを取る」。

草取りの作業、畑はすっかりときれいにしあがり、してもらった家の人も感謝の気持ちで振る舞うのでしょう。

一日掛かりの作業、炎天下暑い中で行う作業がおわり、ほっと一息入れる。

おじさん、綺麗になった畑を見ながらご馳走になり満足感があふれる一時だと想像されます。

そんな思いに駆られる思い出話でした。

 参考資料

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