2月初旬、久しぶりに親しくお付き合いしている、刀匠一貫齊繁綱さんの鍛錬場を訪問してきました。
刀匠一貫齊繁綱さんとの縁は10年以上前、居合を指導していただいたことが始まりです。
訪問の目的は、先月のブログで紹介した「タンバ」の研ぎをお願いすることでした。良く見ると棟(峯)に僅かな錆が出ていたのです。
家から、車で一時間弱の比企郡ときがわ町にあります。一時半頃到着し玄関でインターホーンを鳴らして返事を待っていたのですが、返事がないので無断で家に入りました。仕事中で鍛錬場に居たため聞こえなかったようです。
戸を開けて、挨拶し仕事の区切りがつくまで待ち、その間作業を見ていました。当然火を扱う仕事、冬とは言え傍にいると熱く、夏場は大変な作業になると思いました。区切りがつき、最後に、燃えている炉の炭の中から鉄の塊らしきものを拾い出しているので、それは何ですかと聞くと鉄のカスで「ノロ」と返ってきました。拾わないと炉の底に固まって取れなくなってしまうからだそうです。
「お久しぶりです」と挨拶し、訪問目的を告げて「タンバ」の研ぎをお願いしました。
手にして、タンバを見ながら作られ方の説明をしてくれました。
鍛え方は、柾鍛え(まさきたえ)、板の柾目のように一方方向に鍛えるものと説明があり、刃は地金に※白紙一号と呼ばれる金属を張り付けているとの事
※鋼の種類で青紙、白紙、黄紙とあり、通常青鋼、白鋼と呼ばれるものだそうです。
白紙一号、二号と呼ばれる鋼材があり、鉋、包丁などに使用されている
専門的な用語なので、よく判りませんでしたが、銀色の輝き方が確かに刀身部と違うので分かりました。
作り方にも目的に応じて刃物は作られていることを知りました。
専門家にしか分からない事です。
親父の形見になるので、綺麗にして置きたかったとその動機を話しました。
また、数年前に彼から頂いた木材「斧折れかんば」で作った木刀の仕上がりを見てもらいました。特徴である虎模様が良く出ているかなど気に掛け、私が彼の友人にもあたる人から胡桃の油を頂き、それで仕上げたことを話すと、そうでしたかと納得されていました。
その油を塗ることで、色、艶、虎模様が鮮明に出るのです。その材質水に浮かべても沈むくらい硬いものです。
合気道の組太刀稽古で使うつもりで拵えたのですが、傷をつけるのが勿体無く感じ、素振りだけに留めています。
長さは、102センチ、重さ800グラム強あります。
写真
その後、日本刀、居合いに関して夕方5時ごろまで懇談しました。
私にとって興味深かった話を紹介します。
彼は、師匠であった酒井一貫齊繁政の最後の門人になるそうです。師匠は軍に召集され軍刀鍛冶をされていたそうです。刀の強度を試すために基準があったと説明してくれました。
それは、鉄製で、厚さ2分(5、6mm)、幅3分(約1cm)ものが作った刀で切れることだったそうです。焼きが強いと寒冷地などでは折れやすくなり、通常、焼きが甘いと曲がると話してくれました。
以前ブログで一貫齊繁綱が拵えた3尺の刀を紹介しましたが、改めて聞くと山形の人に頼まれ、流儀は夢想流で林崎神社の奉納演武に使うためだったそうです。試し斬りは短冊型の鉄板で行い、厚さ2分でした。
厚さ2分がある程度切れ味の目安になるのでしょうか。
私が刀の重さにも触れて、「1.2キロから1.5キロぐらいが実用的ではないでしょうか?」と話すと、修理中の柄が付いていない刀二振りを持ち出して説明してくれました。
茎(中心)(なかごと読み※柄をはめる部分)の峯に相当する部分の厚さが3分弱ほどありました。
それを見せてくれた理由は昨今振りやすくするため鞘を払って、柄を嵌めた重量が800グラムと振りやすい軽い刀が作られるようになっているからです。
本人も注文を受けて作ることもありますが、実用的本質からかけ離れることは刀匠としては許しがたいのでしょう。
蛤刃にする理由も教えてくれました。
蛤刃は重ねを厚く作らないとその形にできません。
刀身の断面で中央部が僅かに膨れているのです。別な言い方をすればカーブを描いている状態をいいます。
蛤刃で斬りつけた部位、斬り口が開きめくれ、殺傷能力が高まるとの説明でした。武器としては殺傷能力が高いほうが良いわけですから。
22、3歳のころ古武術の稽古をしていた頃の思い出話では、師匠であった下田某の試し斬りにも触れて、小鮪、重さ40キロほどの胴体を一刀両断した話、直径は4、50センチ程になると言っていました。剣の切れ味を決める手の内の締めの稽古も凄まじく、鍛錬打ちと称してタイヤを打ち込み、跳ね返されないよう鍛えたそうです。それを聞き「合気道でも同様の稽古をします」と答えました。居合いの場合、抜き付けですから右手一本で締めるのです。稽古は厳しいものとなったでしょう。
手の内の締めを確認する稽古では、竹の両端を豆腐で支え、潰さず竹が折れるか、また、鎌を二本の竹にくくり、刃に紙縒(こよ)り※(和紙を細く切りひねってひも状にしたもの)を通して、その紙縒りの輪の中に竹を横に通し、水平にぶら下げた状態にして木刀で折る稽古をしたそうです。
手の内がしっかりできれば打ちこんだ時、竹の両端が上に上がるため衝撃が起こらず、紙縒りは切れずに竹が折れるそうです。
豆腐がつぶれないないのも同じ理屈です。
真剣を使った稽古では土壇場斬りの試斬、五段重ねです。
畳二枚分を丸めたものは一本で直径20cm程になるそうです。重ねれば高さが約1メートルになるのでしょう。これを一刀両断にするのです。
やはり、「手の内の締め」が大切と言われていました。
新聞社の取材を受けた時の話をしてくれました。
刀造りの作業場を見てもらった後、記者から頼まれたのでしょう。
試し斬りをするのですが、その時使った刀、柄がないので茎(なかご)を握って斬ったそうです。その時の写真を記者が撮っていました。
その記者、後日、心得のある他の人に見せたら、驚いていたそうです。
居合では、柄当てと呼ぶ業の理合と袈裟斬りについて稽古上の注意をしてくれました。
柄当てでは、敵が両手で柄を押えている状態から、相手を突き飛ばすため居合腰から立つ時の体勢をしっかり作ること、袈裟斬りでは逆袈裟斬りに斬り上げるので刃筋は小袈裟に入れることなど指摘を頂きました。
今後の稽古に役立てようと思います。
彼は友人でもありますが、刀や居合などの話を聞かせてもらうと、つくづく刀匠として、重信流の使い手としてその腕前に感嘆します。
ある意味、本当の職人さんと思えるのです。
今後もお付き合いし、いろいろ勉強させて頂きたいと思っています。
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