職人気質について

私は略歴でも紹介していますが趣味で、居合を稽古しています。
居合術の起こりは戦国時代中期、林崎甚助重信を始祖として、源流となり各流派が派生したと言われています。他に無形文化財となっている香取神道流の居合術があります。
戦後の黒澤明監督の映画『七人の侍』、『隠し砦の三悪人』なので、殺陣を指導された方がこの流儀でした。名前は杉野嘉男さんと記憶しています。
私が指導していただいている居合の師匠は『刀匠』いわゆる刀鍛冶です。
師匠は、昭和40年ごろから10年間、大宮日進にあった町道場で夢想神伝重信流を学ばれています。
当時はやはり教え方が昔流で師匠からは余り説明は無く、見て学ぶ方法だったとの事。
それから後は、総合武道を学び、槍術、剣術、柔術、杖術を稽古し、その後その影響もあり、刀造りに興味を持ち刀匠の道に入ったそうです。
師匠は刀剣鍛錬を備前伝酒井一貫斎繁政門下で修行し、銘を坂一貫斎繁綱と称し昭和62年7月に工房を開業しています。
このブログの表題で取り上げたそのものを持ち合わせる典型的な職人さんでもあります。
面白いエピソードを紹介します。
ある時、居合を修行されている人から注文を受け、その刀を仕上げて届けにいった道場で起こりました。注文主に刀を渡していた時に、その人の指導者にあたる人からクレームを付けられたのです。
やはり、その指導者も師匠に刀を作ってもらっていました。彼が作ってもらった刀がよく斬れないと言うので、師匠はその刀を取り、巻藁を目の前で横一文字に斬り裂き、彼のクレームに答えました。
いちいち説明せず、納得させてしまいました。
この辺が職人気質がよく出ています。仕事に誇りと自信を持っていて、ものも言わず、斬れることを証明しました。
その指導者はクレームを付けた事をどう感じたかわかりませんが、恥じたのではないでしょうか?。
己の未熟なことを棚に上げ、道具のせいにするのはよくあることです。
そのことで、更に稽古に励めばよし、しかしながら教える立場にありながらその腕前では今までの修行に疑問符です。
次は数年前のことですが、山形の方から注文を受けて、3尺の刀を作っていました。
1m近い刀なので何に使うのですかと聞いたところ、演武で鉄を切るためと言いました。以前より刀で金属を斬ることは知っていましたが、今でも試す人がいることに驚きました。
後日、お伺いした時に、その結果を聞いたところ、見事短冊状の鉄板厚さ2分(6.06㎜)を斬ったとの事。
『俺が作った刀だ』というような誇らしげな表情で話してくれました。
居合の教え方もにも気質がでて、簡潔です。
余計な説明は無く端的に教授するだけです。しかし本質は突いていてとても判りやすく言われたとおり稽古を続けていると、ある時大切な事柄が見えてきます。
数日前ですが、稽古の参考にと考え、居合演武のCDをもってお伺いし、映写しながら感想を聞きました。
一例ですが、演武者の「脛囲」の技について感想を求めた所、すぐさま3点ほど稽古間違いをしているところを指摘してくれました。
○ 斬りつけてくる脛を守るには、払う刀の位置が脚に近すぎる、切先は床すれすれに、且つ脚よりもっと右の位置で受けなければ斬られると。
○ 腰が高い、もっと低く。
○ 上二つの所作を同時におこなわないと受けられない。
竹刀剣道でなく、古来の剣術を稽古してきた人だけに、『それでは斬れない、そうだと斬られちゃう』という表現がよく出ます。
その様な表現を耳にしていると、居合を稽古している時、刀で斬り合う事をつい想像し、文字通り真剣味になってしまいます。
今時の稽古では、あれやこれやと説明だけが目立ち、実技がたいしたことが無い指導者が増えています。
その点、私の師匠は本質的な説明(型の理合)だけで精神訓話など一切しませんし、『斬る、斬られる』という端的な表現と、隙がある所作が出ると指摘してくれます。その様な稽古指導なので、かえって精神面の大切さが分かってきます。
そのため、稽古にとても興味がもてます。
学ぶ側の姿勢によってはそう思えない人もいるでしょう。
ある意味で、師匠の教え方が実質的なあまり、スポーツ感覚で稽古している人には理解出来ない面があるのではと感じるからです。
何故、こう言うことを書くのかといえば、本来武術であったものが今はスポーツとして健康のため、楽しむ事が目的とされてしまい、先人達が武術として残した居合修行の目的とズレが生じていることを感じているからです。
昨今の風潮として、楽しければ、面白ければよしとし、苦行などは馬鹿馬鹿しいと厳しさを避ける傾向が見えます。
これだと居合修行の本質は見えてきません。この師匠に出会えた事に感謝しています。
私が居合の稽古に使用している刀は師匠が造った刀です。
備前伝身幅広く、蛤刃、切先鎬造、刃文は波小さく湾(のたれ)、地肌柾目、重さ鞘をはらった状態で1,2キロ、刀渡り2尺3寸4分。

1件のコメントがあります

  1. 村田さんより2008年3月8日5:15 PM

    村田といいます。
    成田市下福田の神武館道場で、香取神道流を習っています。もう15年ほどやっていますが、まだ未熟です。
    私が居合いの稽古に使っているのが、坂一貫斎繁綱の剣です。試し斬りはしていませんが、このブログで切れ味のすばらしいことを知って、うれしい限りです。
    平成4年の剣で、2尺3寸5分、梵字と不動明王が彫ってあります。金具は勝ち虫、緑の柄糸です。

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