「おはぐろ」と読んで、この言葉の意味を知る人は昨今少ないのではないでしょうか。私は、映画から知りました。子供の頃時代劇で、武家の結婚したご婦人の方を扮する女優さんが歯を黒くして出演していたのを見ました。当時江戸時代の習慣であったのでしょう。歯の保護が目的だったそうです。漢字で書くと『お歯黒』となります。昔の時代劇に出る武家のご婦人の役の方は必ず歯を黒くして出ていましたが、いつの頃かわかりませんが最近の時代劇では時代考証をちゃんとやることもなく歯を黒くして出演しなくなっています。時流というものでしょうか、白い歯が、美的にいいとされてきましたので、それにあわせているのでしょう。いつ頃から「お歯黒」の習慣がなくなってきたかといえば、明治維新以降からだそうです。ある本に「お歯黒」について書かれていましたので、引用し感想を記述します。
「今日の20~30代の人には(注 昭和40年に書かれた記述です)、おはぐろと言って、結婚したご婦人が歯を黒く染めていたことを知らない人も多いであろう。明治元年に歯を黒く染めるおはぐろの禁止令が出ているし、黒くした歯は見た目にも美しくないので、今においてはおはぐろを知る人が少ないのも当然である。目が澄み、歯の白いことこそ今日では美人と言われている。しかし、婦人は子供を産むときに歯を悪くする。この歯を悪くしたり、虫歯になったりするのを防ぐのに、おはぐろをしたのは、生活の知恵でもあったというわけである。」
歯を守る効能があるのに、当時の政府が禁止令を出してまで、止めさせようとしたのは西洋化を推し進める背景があったのでしょう。明治政府の西洋化の象徴が「鹿鳴館」が有名です。映画での印象は、洋装をして社交ダンスする場面が思い出されます。
明治天皇の御后であった昭憲皇太后様は洋装で通したそうです。
「散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」といわれるまで浸透して行ったのでしょう。
明治維新は大きく価値観を変えた時代とも言えます。
そのおはぐろの効能を科学的に検証した大学教授がいたそうです。
本に次のように書かれていました。
「おはぐろは虫歯を防ぎ、歯のゆるくなるのを止めるという。おはぐろを歯に塗ることによって、たしかに歯の耐酸性が増し、実際に食物の歯に対する侵食を防ぐことが、東京歯科大学理工学部教室の相三教授、口腔外科教室の田村八郎らのグループによって・・・・・」
私は彼等教授が解明した内容からおはぐろが一種の化学反応であり、化成皮膜と同様なものと思ったのです。
新聞に書かれた内容が次の記述です。
「・・・・・・茶をわかし、古くクギを焼いていれ、さらにアメ、こうじ、砂糖などを加える。酒を少しいれることもある。これをツボにいれて密封し、2~3か月冷暗所で保存するとだんだん鉄さびができ、茶褐色、ついで黒褐色の水となる。これでできあがり。
歯に塗りつけるには、まず口の中をきれいにし、ふしの粉(ヌルデの若葉や若芽に、ヌルデノミミフシというアブラ虫が刺戟してできたコブシ状のものを粉にしたもの)をつけながら筆でくりかえしぬる。歯が真っ黒になるのに1時間くらいかかる。そのあとふつう一ヶ月に4~5回ぬってはげるのを防ぐ」
この記述を読み、昔の人どうやって作り方を発明したのか想像をできかねます。
試行錯誤しながら、経験から育まれた知恵で工夫していたのでしょうか。
身の回りの品物、現在は分業が進み自分で作ることを忘れた現代人から見ると、
想像以上に、日々の生活の中に、言い伝えられてきた知恵というものが有ったのでしょう。
記述は更に続き、次のように説明していました。
「このおはぐろ液は水酸化第二鉄、酢酸鉄、硫化鉄などの混合水溶液になっている。
また、フシノ粉はタンニン酸をたくさん含んでいるので、おはぐろそのものはタンニン酸第二鉄塩である。・・・・タンニン酸第二鉄が安定で、歯そのものの酸食を防いで虫歯の予防になるわけである。」
今日、化学的にそれを解明できる理論がありますが、それがない時代でもそのような知恵が生まれるのが凄いと感じます。
科学技術が進歩して、その恩恵に浴している我々ですが、昔の人より知恵を出す工夫を忘れているのではと感じます。温故知新ではないですが、便利に馴れすぎて生活に工夫し知恵を出すような心がけをしなくてはと思います。
「お歯黒」ならぬ「お歯白」なる製品が発明できないものでしょうか。
ひょっとするとできているのかもしれません。テレビなどで妙に白い歯をもっている人を見掛けます。
ネットの記事にインフルエンザ対策に塩水でうがいすることで防げると報じていました。「インフル予防に「塩うがい」唾液中免疫物質の効果に着目!」
ふっと小さい頃、言われていたことを思い出しました。
他に、※風邪の処置で葱を焼いたものをガーゼで包み首にまいたこと、 おろし金でりんごをすったものを食べさせられたことを思い出します。
※この記述を書くにあたり、確認のため、おばあちゃんに聞くと葱の臭いが鼻の通りを良くすると教えて呉れました。
<ヌルデノミミフシ>
アブラムシ科の昆虫。体長1~1.5ミリ、黄褐色または暗緑色。春から夏、ヌルデの葉などに寄生し、五倍子とよぶ虫こぶを作って暮らす。秋になると翅(はね)をもつものが現れ、コケ類に移動して産卵。幼虫で越冬ののち、ヌルデに移る。<大辞林より>
参考文献 「随想 さびの話」 著者 山本洋一 出版 理工出版
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