「剣のこころ」勝海舟-名人の位ー

タイトルは書籍の「*」題名、今から40数年前に購入した本です。
当時、知人より、彼が所有する道場で合気道の指導をしていた頃です。
大学で合気道を習得していたので指導をたのまれたのです。
指導するに当たり、武道の精神を正しく伝えなければと考え、武道関連の書籍を買い求めた中の一冊です。

この本を久しぶりに目を通しだ切っ掛けは、「歩く姿が武である」と開祖の弟子塩田剛三著「合気修行」の載っていた言葉を思い出し、この本に書かれていた逸話、「榊原健吉が弟子である山田次郎吉に道統を託す話」が記憶に蘇ったのです。
この本の196ページに書かれていました。

この本が書かれた背景を説明します。
著者の略歴を記します。
「あとがき」に拠れば、
「私は16代の川島先生(写真右下)から剣道と弓(日置流)を教えられたが、昭和32年に先生が亡くなられてから、17代の大西先生(写真左下)の剣道を教わったのである。その大西先生も昭和41年に亡くなられた。なくなる1年前、私は後見役として、後継者の伊藤雅之君に教え、育てるように依頼された。しかし色々の事情もあり、かつ伊藤君から頼まれて、私は今、後見役でなく責任者の立場に立っている。」
※本が出版されたのが昭和54年7月とありますから42年前となります。

タイトルに勝海舟の名を著した理由を「あとがき」に、
「昭和49年のNHK大河ドラマは勝海舟であった。直心影流の剣友加藤平雄氏は、当時出版を業としておられたが、勝海舟の事跡は広まっても精神基盤を知る人は少ないので、「勝海舟の原点」と題して直心影流に伝わる剣の精神を書いて欲しいと、筆者に依頼して来た。本を書いた経験はないので、一度お断りしたが、たっての奨めもあり、私自身直心影流16代・17代の二人の先生に師事して、色々教えられた事を取りまとめねばという思いもあったので、与えられた機会に感謝してお引き受けしました。」
※勝海舟の事跡は広まっても精神基盤を知る人は少ないので、・・・とありますが、
著者は序文で氷川清話から引用し、精神の基盤が直心影流の修業によるとの一文を紹介しています。
「オレガ本当ニ修行シタノハ、剣術バカリダ」
「百年前に、日本の内戦の滅亡から救った勝海舟の精神こそ、今世界を滅亡から救い得る精神ではなかろうか、その精神こそ剣の心である。勝海舟の学んだ直心影流の剣の心を、一人でも多くの人に知って戴きたいと念願すると共に、以上の意味でこの書がお役に立てば望外の幸せである。」

勝海舟が直心影流の剣術を習ったのは、島田虎之助の道場でした。
氷川清話で、次のよう述懐しています。
「・・・略・・・此ノ剣術ト座禅ノ効ガ、オレノ土台トナッテ後年大層タメニナッタ。幕府瓦解ノ時、万死ノ境ニ出入リシテ、ツイニ一生ヲ全ウシタノハ、全ク此ノ二ツノ効果デアッタ。アル時分ハ多クノ刺客ニネラワレタガ、イツモ手取リニシタ。コノ勇気ト胆力ハ畢竟コノ二ツニ養ハレタノダ。危難ニ際シテ逃レラレヌト見タラ、先ズ身命ヲ捨テテカカッタ。シカシ不思議ニモ一度モ死ナナカッタ。ココニ精神上ノ一大作用ガ存在スルノダ。」

著者が「百年前に、日本の内戦の滅亡から救った勝海舟の精神こそ・・・」と書いたのは、「ココニ精神上ノ一大作用ガ存在スルノダ。」と勝海舟が語った事に拠るのでしょう。
「剣のこころ」と題したのは此の事でしょう。
戦後は「尚武の気風」が廃れ、武道による「こころの錬磨」を忘れた今の日本人に著者はこの本で警鐘を鳴らしているのでしょう。
政治家として第一義の心性と思います。

著書の説明が長くなりましたが、「歩く姿が武である」との例が冒頭申しました通り、榊原健吉が山田次郎吉(写真左上)の鹿島神伝直心影流の道統を託す経緯の記述は次の通り。

「・・・そして明治26年春の事である。・・・略・・・榊原先生と山田は共に下駄ばきで、九段坂にさしかかった。と突然、先生の下駄の鼻緒が切れて、流石の先生も倒れかかった。素早く片腕を伸ばして先生を支えた山田は、同時にもう片方の手で、自分の下駄を先生の前に揃えた。正に寸分の隙もない早業である。さすがに頑固一徹の榊原先生も、差し出された下駄を辞退する余裕がなく、「では、拝借しますよ」と一言いって静かに歩き出したが、先生の両眼からは涙が溢れ出ていたという。・・・」

このことが道統を託す切っ掛けとなった。
その時の様子は、
「私は、先師男谷下総守友善先生より、永らく直心影流の目録をお預かりしていたが、本日神宜により、汝山田次郎吉にこれを渡す。謹んで御受けせよ」と言い渡した。
明治27年元旦の事である。
山田次郎吉の技量、その呼吸、間髪を入れぬ動作、大いに学ぶべしと榊原先生は一同の前で称賛した。
御供しての道行、三歩下がって師の影を踏まずと云われた時代、横様に倒れかかった師に対して咄嗟に動いた所作に全てを見抜いたのでしょう。

それが「歩く姿が武である」の体現なのでしょう。

 

 

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